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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)2429号 判決

原告

加藤健

ほか一名

被告

大島康宏

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告加藤健に対し、金一一万円及びこれに対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告加藤秀子に対し、金一二〇万六三三三円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは各自、原告加藤健に対し、金一二三万一七五〇円及びこれに対する平成元年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告加藤秀子に対し、金四二一万五一五五円及びこれに対する前同日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  事故の発生

次の交通事故が発生した。

(一) 日時 昭和六三年四月二二日午後四時五五分頃

(二) 場所 大阪市住之江区南港中二丁目一番先市道上

(三) 加害車 普通貨物自動車(和泉四〇に三〇八九号)

右運転者 被告大島

右保有者 被告会社

なお、被告大島は被告会社の業務遂行中であつた。

(四) 被害車 普通貨物自動車(和泉四〇う八八〇三号)

右運転者 原告秀子

右同乗者 原告健(後部座席に乗車)

(五) 態様 交差道路から右折して本件道路南行車線に進入しようとした加害車が、本件道路北行車線を北進中の被害車に衝突したもの

2  治療経過

(一) 原告健は、次のとおり通院治療を受けた。

(1) 大阪府立病院

昭和六三年四月二七日から同年九月一九日まで

実通院日数五日

(2) 池田病院

同年九月一九日から同年九月二二日まで

実通院日数二日

(3) 安藤整骨院

同年五月九日から同年一〇月三一日まで

実通院日数一一一日

(二) 原告秀子は、次のとおり通院治療を受けた。

(1) 大阪府立病院

昭和六三年四月二七日から同年一二月一二日まで

実通院日数一五日

(2) 池田病院

同年九月一九日から同年一〇月三一日まで

実通院日数六日

(3) 安藤整骨院

同年四月二八日から同年一〇月三一日まで

実通院日数一二二日

(安藤整骨院への通院については、甲二四の二ないし五及び甲二五の一ないし三によつて認められる。)

3  責任関係

被告大島には過失があり、民法七〇九条による責任を、また、被告会社は被告大島の使用者として民法七一五条による責任と自動車保有者として自賠法三条による責任を、それぞれ原告らに対して負う立場にある。

二  争点

原告らの受傷内容、必要な治療及びその期間、休業の必要性(原告秀子)、後遺障害の有無(原告秀子)

1  原告らの主張

(一) 原告秀子は、本件事故により、頸椎捻挫、頭部・肩部部各打撲の傷害を負つた。同原告の頸部神経の損傷は甚だしく、筋緊張が強く、頸部自律運動ができず、吐き気が継続し、五分と立つていることはできず、通院期間の大半は自宅で就寝しておらねばならない状態が続き、安静状態を保たねば頭痛の激化を抑え、吐き気を止めることができず、その上、右手麻痺のため自らの動作にも支障を来たした。

治療の結果、昭和六三年一二月一二日大阪府立病院において、頭痛、頸項部の筋緊張等の症状が現存するが、今後治癒の見込みなしとして症状固定の診断を受け、なお、現在も頭痛・吐き気が継続し、作業運動ができない状態にある。

(二) 原告健も、本件事故により、頸椎捻挫、頭部・肩部部各打撲の傷害を負つた。同原告の頸部神経の損傷も甚だしく、筋緊張が強く、頸部自律運動ができず、吐き気が継続し、頭痛が強く、学習活動が続けられなかつた。

2  被告の主張

本件事故は、時速一五キロメートルで進行中の加害車の左前角部が被害車の左側面に衝突したものであつて、その速度及び衝突角度からして原告らがいわゆる「むち打ち症」を受傷するか極めて疑問である。また、原告秀子の症状は心因性反応によつて発症・長期化したものであり、原告健の症状は、整骨院に頻繁に通院しマツサージを受けたことによる医原性のものである。したがつて、原告らを診察し、経過観察するのに必要な一、二週間程度の期間であれば格別として、それ以後の通院期間については本件事故と因果関係はないし、安静加療して経過を見るのに必要な二、三日間の休業については本件事故と相当因果関係があるがその後については因果関係がない。

第三争点に対する判断

一  原告らの症状の推移、治療経過及び後遺障害について

1  前記争いのない事実に、証拠(甲一、甲二、甲四ないし甲一一、甲一三、甲一八、甲二〇の二ないし五、甲二一の二ないし一〇、甲二二の一ないし五、甲二三の二ないし五、甲二四の二ないし五、甲二五の一ないし三、乙一の二ないし一三、証人石山照二、原告本人)を総合すれば、以下の事実を認めることができる(なお、各項末尾の括弧内に掲記した証拠は、当該事実の認定に特に用いた証拠である。)。

(一) 本件交通事故は、交差道路から右折して本件道路南行車線に時速約一五キロメートルで進入しようとした加害車が、本件道路北行車線を時速約四〇キロメートルで北進中の被害車の左側前部ドアあたりに衝突したもので、事故当時、原告秀子(昭和三〇年一一月一日生まれ、当時三二歳)は、被害車の前部右側の運転席に、原告健(昭和五五年一一月八日生まれ、当時七歳)は、被害車の後部左側座席に、訴外加藤紀行(昭和五八年一月一五日生まれ、当時五歳)は被害車の後部右側座席に乗車していた。この事故により、加害車の左前部角及び被害車の左前部ドアが凹損した。

(二) 原告健は、本件事故後直ちに、大阪府立病院に搬送され、原医師の診察を受けた。同医師は、原告健の意識ははつきりしており、歩行は正常で、四肢に麻痺はなく、腱反射は両側とも正常で、体表に外傷なく、特に圧痛点もない、首に硬さはある、後頭部痛いということであるが最小限の痛みのようであると診断して、原告秀子に原告健の様子を観察し、何かあれば整形外科で診察を受けるよう指示し原告健を帰宅させたが、同原告は同月二七日まで同病院に通院しなかつた。

同月二七日、原告健は同病院の久田原医師の診察を受けたが、その際、原告秀子は原告健の症状について、本件事故後、頂部痛、倦怠感で家にいることがある、昨日に自転車で転倒し、右顔面を打つたと説明したが、原告健は特に症状を訴えず、同医師は、現在項部痛はなく、首の可動範囲は十分であり、神経学的欠損は認めず、四肢運動良好であり頸椎のレントゲン写真上異常は認めないと診断し、同医師は同年五月二日付けで頸椎捻挫により全治一〇日を要するとの診断書を作成した。

同年五月二七日、本人は受診せず、原告健は首を伸展したときに痛みがあり、倦怠感を訴えていると原告秀子が述べ、湿布薬が投与された。

同年八月一日、同月二二日、同年九月一九日と原告健は、通院したが、何らの医療措置はとられなかつた(甲一四)。

(三) この間、原告健は、池田病院に同年九月一九日から同年九月二二日まで(実通院日数二日)、安藤整骨院に同年五月九日から同年一〇月三一日まで(実通院日数一一一日)通院した。そして、池田病院医師は、同病院初診時に頸肩に圧痛があると認め、頸部捻挫、外傷性頸部症候群と診断し、投薬などを行つた。また、安藤整骨院柔道整復師は診断書に原告健の頸項部の筋緊張、圧痛が著明で、頸部の後屈が困難で、起床時の疼痛が甚だしく、長時間の学習等で頸部に手をやる動作多く自宅にても寝ころがること多く、治療中も頸部の安定保てず首もたげること多く、術者の軽微なる軽擦にも右頸部の疼痛、違和感を訴えじつとしていない状態であつたが、理学療法により症状が改善したと記載した。

(四) 原告秀子は、本件事故当日、原告健に付き添つて大阪府立病院に行つたが、そのときには、特段痛みを感じていなかつた。

原告秀子は、本件事故五日後の同年四月二七日、大阪府立病院整形外科で受診し、主治医に、事故後自宅に帰つてから頭痛感が出現した、日によつて痛む部位が変わる、項部痛もある、首伸展すると痛みがあると説明したが、主治医は上肢のしびれ、指の運動異常は認められず、病的反射も認められない、頸部レントゲン写真上異常は認めないと診察し、湿布等を行い、また、同年五月二日付けで頸椎捻挫により全治一〇日を要するとの診断書を作成した。

その後も、原告秀子は、大阪府立病院整形外科の医師に対して、頭痛や頸痛などを訴え、同年六月一三日からは目の奥の痛み、ものを持つときの手のふるえを、同年八月二二日からは後屈制限なども加えて訴えるようになつた。もつとも、頭痛については、同年六月一三日には程度は変わらないものの、持続性ではなくなつたと、同年七月四日には軽快したと説明するなど一時症状の改善が窺われたが、同年九月五日には一週間前から頭痛、吐き気が出現し二日ほど寝込むほどに悪化し、同月一九日には家事への支障を訴え、同年一一月一四日には台所仕事は五分くらいで気分が悪くなると訴え、同月二八日には吐き気、頭痛が一週間に一回は続くと訴えた。そこで、同年一一月二八日、同病院医師は同病院精神科で診察を受けるよう原告秀子に指示し、同原告は診察を受けたが、同科医師は精神医学的には異常が認めないと診断した。

そして、大阪府立病院整形外科医師は、昭和六三年一二月二四日、症状固定日を同月一二日、診断名を頸椎捻挫とし、自覚症状として頭痛、吐き気などを訴え、安静時及び立位保持五分で上記症状の発現を認めるとし、他覚症状及び検査結果として、レントゲンで頸椎に異常は認めず、神経学的異常、精神機能的異常は認めない、頂部に筋緊張を認めるとし、現在の症状は固定したものと考えると記載した後遺障害診断書を作成した(甲一一)。

なお、同年七月初旬頃、CTスキヤナーにより、くも膜下にのう胞が認められたが、これは本件交通事故とは無関係なものと診断されている。

(五) この間、原告秀子は、池田病院に同年九月一九日から同年一〇月三一日まで(実通院日数六日)、安藤整骨院に同年四月二八日から同年一〇月三一日まで(実通院日数一二二日)通院した。そして、池田病院医師は、同病院初診時に頸の運動(後屈)による疼痛、左手のしびれ、頭痛があると認め、外傷性頸部症候群と診断し、投薬などを行つた(甲二六には原告秀子が池田病院に同年一二月二八日まで通院した旨記載されているが、甲二〇の四及び五の同病院カルテには同年一一月以降の記載はないので採用しない。)。また、安藤整骨院柔道整復師は診断書に、頸頂部(特に右)の筋緊張、圧痛が甚だしく、頸部の自動運動が困難で、頭重感、めまい、易疲労性、吐き気などを訴えていた、五月中旬より頸部の運動機能は徐々に回復したが、神経性の自覚症状が増大し、日常生活に苦痛を訴え、筋緊張範囲は負傷当初より広範囲となつた、九月初旬からこれらの症状が徐々に軽快に向かつたが未だに第三、第四、第五頸椎の右側に筋緊張があると記載した。

なお、安藤整骨院宛の紹介状を作成した大阪府立病院整形外科医師は、石山医師であるが同医師が原告秀子を初めて診察したのは、昭和六三年七月四日になつてからのことで、原告秀子はこの紹介の前から同院に通院していた(甲二一の五及び八)。

2  そして、以上によれば次のようにいうことができる。

(一) 原告健

前認定事実によれば、本件事故直後や同月二七日に大阪府立病院で診察を受けた当時においてさしたる所見は認められず、その後も同原告自身は同年四月二七日に通院後、同年八月一日まで大阪府立病院では受診しなかつたものであるし(この間においては、同年五月二七日、原告秀子が、原告健は首を伸展したときに痛みがあり、倦怠感を訴えていると説明するにとどまつていた。)、同年八月一日以降大阪府立病院で診察を受けてもなんらの医療措置もとられなかつたことになるものであつて、これらの症状の推移、治療経過からすれば、同原告が本件事故当時七歳と若年で自ら症状を訴える能力に乏しいことを考慮してもなお、原告健が本件交通事故によつて、当初診断された一〇日の期間を越えて治療を要するような負傷をしたとは認め難いといわざるをえない。大阪府立病院石山医師、池田病院医師及び安藤整骨院柔道整復師は、右認定と異なる趣旨の診断をしているが、その診断は多分に原告秀子の説明に負う部分が多く、右の判断を覆すまでのものとは認められない。

(二) 原告秀子

前認定の事実によれば、原告秀子については、同月二七日に受けた診察では他覚所見に乏しく、神経学的所見は認められなかつたのに、むしろその後次第に不定愁訴が増大し、筋緊張範囲が拡大したり、後屈制限(八月二二日)が生じるなどの経過をたどつたということになる(もつとも、同原告の右愁訴は神経学的裏付けを欠しく、精神医学上も異常は認められないところで、改善が期待されるから、原告秀子の右症状をとらえて後遺障害と認めることはできない。)。

そして、前記認定の症状経過に照らせば、原告秀子の心因的要素が同原告の症状の拡大、長期化に寄与しているということができるが、同原告がこのような心因的要因を有するに至つたことについて責められるべき事情は同原告にはなく、また、本件事故以前において、そのような要因に基づく症状を発現していなかつたし、本件事故がなくともいずれそのような症状を発症したとまでは認め難いこと、右認定の治療経過や事故から七か月余り後の同年一二月一二日に症状固定とされ治療が打ち切られていること等を考え併せると、それらの症状も広い意味において本件事故に起因したものとして、同年一二月一二日までの分については相当因果関係を認めるべきであつて、それ以前のある時点より後の分について相当因果関係を否定したり、素因に応じた割合的認定ないしは寄与度減責をしなければ損害の公平な分担を図れないとは認め難い。

二  そこで以上を前提に原告らの損害について判断する。

1  原告健

(一) 治療費(請求額 一四万四八五〇円) 〇円

前認定事実によれば、原告健の負傷は同年五月初め頃には治癒したということになるところ、その後になされた大阪府立病院の診察、池田病院における治療及び安藤整骨院における施術に特段の症状改善効果があつたとは認め難い。

したがつて、同原告請求の治療費(大阪府立病院につき昭和六三年五月二八日以降分並びに池田病院及び安藤整骨院分)は本件事故と相当因果関係に立つ損害とは認められない。

(二) 通院交通費(請求額 四万〇九〇〇円) 〇円

大阪府立病院に昭和六三年四月二七日に通院した分については、その金額を証する証拠はなく、その余については、右の(一)のとおり必要性を認め難い。

(三) 付き添い看護費(請求額 二三万六〇〇〇円)〇円

右(一)に認定の事実に照らしその必要性を認め難い。

(四) 慰謝料(請求額七〇万円) 一〇万円

以上に認定の諸般の事情を考慮すると、原告健が本件事故によつて受けた肉体的精神的苦痛に対する慰謝料としては右金額が相当と認める。

(五) 弁護士費用(請求額一一万円) 一万円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、一万円と認めるのが相当である。

2  原告秀子

(一) 治療費(請求額 三〇万四四七五円)二四万七七六五円

前認定の事実によれば、原告秀子の症状は、昭和六三年一二月一二日までの分については相当因果関係を認めるべきことになるから、大阪府立病院における治療費一〇万〇四五五円及び鳥潟病院における治療費四万七六八〇円は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる(鳥潟病院における治療費については、必要性を含めて当事者間に争いがない。)。

しかしながら、池田病院における治療内容は、大阪府立病院におけるものと基本的に同一であるところ、特に大阪府立病院における治療に加えて更に治療を要したとは認め難いので、本件事故と相当因果関係に立つ損害とは認められない。

もつとも、安藤整骨院における施術については、右症状の推移からして、特段の症状改善効果を期待することはできず、また、現に特段の症状改善効果があつたとは認め難いので、医師が指示をする以前の分については相当因果関係を認められないが、昭和六三年七月四日以降の分(八一回分九万九六三〇円)については医師の指示ないし承認に基づくものとして相当因果関係を否定することができない。したがつて、安藤整骨院における治療費一五万六一八〇円のうち、九万九六三〇円は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められるが、その余は認められない。

(二) 通院交通費(請求額 四万〇六八〇円) 〇円

大阪府立病院分及び安藤整骨院の昭和六三年七月四日以降の分については、その金額を証する証拠はなく、その余については、右(一)のとおり必要性を認め難い。

(三) 休業損害(請求額 一〇八万円)四五万〇〇〇八円

原告秀子が主婦であつたことは当事者間に争いがなく、したがつて本件事故当時三二歳の原告秀子は、その当時、昭和六三年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計三〇歳から三五歳までの平均年収額二七九万五八〇〇円程度の財産上の収益をあげていたものと推認することができる。

そして、右に認定した原告秀子の症状の内容及び程度、その治療経過などに照らすと、本件事故後、原告秀子が家事労働を行うについては困難は生じたものの、その程度は常に著しい困難をともなつたというものではなく、むしろ事故当初よりむしろ数カ月経過後に増悪したということになるが、それでも、同年九月五日頃は二日ほど寝込むことがある程度、同年一一月一四日には台所仕事は五分くらいで気分が悪くなると訴えながらも、なお同月二八日には吐き気、頭痛が一週間に一回は続くと説明している程度であることなどを考え合わせ、本件事故日から大阪府立病院医師が症状固定したものと診断した昭和六三年一二月一二日に至るまでの全期間二三五日間については平均して二五パーセント程度の就労能力の制限を受けていたものと認めるのが相当である。

したがつて、原告秀子が、本件事故により被つた休業損害は、次のとおり四五万〇〇〇八円(一円未満切り捨て)と認められる。

算式

2,795,800×235÷365×0.25=450,008

(四) 通院慰謝料(請求額一五〇万円) 四三万円

以上に認定の諸般の事情を考慮すると、原告秀子が本件事故によつて受けた肉体的精神的苦痛に対する慰謝料としては四三万円が相当と認める。

(五) 後遺障害による逸失利益(請求額五四万円)及び後遺障害慰謝料(請求額七五万円) 〇円

原告秀子に後遺障害が残存したとは認められないことは前認定のとおりである。

(六) 車両修理立替費(請求額 一五万円) 五万円

本件事故により被害車両の左側ドアが凹損したことは前認定のとおりであるところ、原告秀子は、この車の所有者である同人の父に修理代金として一五万円を支払つたとして領収書(甲一九の一)を提出する。

しかしながら、甲一九の二及び原告本人尋問の結果によれば、右車両が昭和五二年式の車両であり、原告秀子は保険会社の担当者からその車両の価値が五万円であると聞いていたことが認められるところ、原告秀子は車両の評価について、他にはなんらの立証をしていない。

したがつて、右車両評価額五万円の限度で、本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

(七) 既払額 七万一四四〇円

原告秀子が本件交通事故に関し、右金額の支払を受けていることは当事者間に争いがない。

(八) 弁護士費用(請求額六〇万円) 一〇万円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、一〇万円と認めるのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井英隆)

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